虚証かなづちの僕を心配して先生がウェットスーツを貸してくれました。
これを着ていればあったかいし浮力があって絶対におぼれないからと。
それなら…としぶしぶ海デビューを決意したわけです。
全身タイツのモジモジくんみたいになり、ゴーグルとシュノーケルを装備して、いざ海へ。
体脂肪率9%の虚弱体質に海水はヒヤッとしましたが、そのうちに慣れ、プカーッと潮の流れに身をまかせました。
岩礁にはワカメみたいなのやヒジキみたいな海草が生えていました。
小魚の群れや鮮やかな黄色の熱帯魚のような魚もいました。
前方に目をやると沖に大きな岩場がありました。
真っ黒に日焼けした地元の子供たちが奇声をあげながら飛び込んでいました。
5メートル以上はあるんじゃないかと思います。
子供はかくあるべしですね。
都会のお母さまがたが見たら卒倒するようなワンパクな風景なのです。
あそこまで行こう!
普段なりをひそめている男らしさというやつが俄然わいてくるのを感じました。
夏はアツくさせてくれます。
カモシカのような下肢でバタ足します。
ところがこのスーツ、浮力がありすぎてバタバタさせても水面のうわっつらを叩くばかりでなかなか前に進みません。
それなら手を使おう。
平泳ぎの要領でかいてみるとけっこう推進力がありました。
これならいける、調子にのって泳いでいるとみるみる菱形筋、広背筋などの背筋群に乳酸が怒濤のように押し寄せてきました。
普段甘やかしきって退行性変性を起こしていた背筋にです。
まずい!
このままじゃ片道切符だ!
いやな冷や汗がでました。死の恐怖が襲いました。
海水の冷たさとあいまって自律神経が一気に交感神経に傾きました。
呼吸がみだれ、口呼吸を強いられているのも忘れ、鼻から吸ってしまったようです。
高濃度の塩化ナトリウムが鼻腔をつき抜け、ツンとしてむせかえりました。
もはやパニックです。
はたから見たら、さすがいぶし銀!古代泳法?みたいな犬かき状態に。
火事場の馬鹿力、とにかく岩場まで必死で泳ぎました。
なかば打ち上げられるようにして、なんとかたどりつきました。
周囲はみんな水着だというのに一人だけプロはだしの装い。
さぞかしキャリアを積み海の酸いも甘いも知り尽くした海の男なのだろう、そんなまわりの固定観念をおもいっきりぶちこわす、日焼けしてない上にチアノーゼ様に青ざめた僕が鬼のような形相をして岩にしがみついていました。
そんな状態で帰れたのかと心配でしょう。
今こうしてブログを書けているので、なんとか生きて帰れたわけですが。
グッタリしているのはご想像の通りです。
しばらくは海を見たくありません。
僕にはどうやら海より山が合っているようです。